僕がゲイで良かったこと 第30回

第30回 まだまだ揺さぶられている沖縄

平良 愛香

このオンラインエッセイも30回目を迎えました。こんなに書くことがあったのか、と自分でも驚いています。そもそも「僕がゲイで良かったこと」というタイトルで始まった連載なのに、最近は沖縄の話(しかも楽しく読めるような内容ではない)ばかり続いていて、「ゲイ話」を期待していた読者は困惑しているかもしれないなあ、と感じています。でも、「エッセイなのだから、自分が思うままに書いていい」と引き受けた連載ですし、平良愛香という人間自身が「ゲイ」であると同時に「ウチナンチュ」であることは大切なことなのです。皆さんもそうですよね。自分のアイデンティティ(これを除くと私ではなくなると感じるほど大切な自分の要素)って、ひとつしかないわけではないのですから。ということで、しばらくはLGBTQよりも沖縄の話が続くと思います。ユタサルグトゥ、ウニゲーサビラ(どうかよろしくお願い致します)。

この夏から現在にかけて、沖縄の状況が激しく揺さぶられています。少し前に予告した「南西諸島とは?」といったテーマでも早く書きたいのですが、沖縄での事柄がどんどん動いているためにどうしてもそれに触れないわけにはいかず、今回は前回の「沖縄が訴えた裁判でいま起きていること」の続きとなります。

前回触れた、「沖縄防衛局が出した辺野古新基地建設の埋め立て設計変更を承認しない沖縄県に対してそれを不服とした沖縄防衛局が国土交通省に行政不服審査請求を出し、それを受けた国土交通省が沖縄防衛局の不服を認めて『沖縄県は沖縄防衛局に従うべきだ』といったことを出してきたため、沖縄県が『そりゃおかしいでしょ』と国土交通省を訴えた裁判」の最高裁判決が9月4日に出ました。上告棄却です。なぜ埋め立て設計変更を沖縄県が承認しなかったか(防衛局が出してきた設計変更では工事は無理だと判断したからなのですが)には全く触れず、「防衛局が出した行政不服審査請求に国交省が回答して県の判断を否定することは間違ってはいない」、という判決です。う~ん、内容を審議してほしいのですが・・・。

判決後、玉城デニー知事はジュネーブの国連人権委員会にまで赴いて「私たちの権利が阻害されている」と訴えました。しかしその後、予想通り政府は沖縄県に対して「設計変更を承認せよ」という「指示」を出してきました。もちろんここで折れる沖縄県ではありません。知事はあらためて設計変更の不承認を明らかにしたのです。案の定、政府は代執行(県の代わりに埋め立ての設計変更を承認する)の準備を始めました。これは辺野古新基地や沖縄県だけの問題ではなく、「地方自治の命がけの決定を、国は圧力をかけてつぶそうとしてくる」という問題でもあります。実は「沖縄で今現在何が起きているか」というのは、「日本で今現在何が起きているか」ということに他ならないのです。沖縄に目を向けると、日本が今どんな方向に向かっているのかがよく分かります。「沖縄は大変ですね」と安易に言われると、私は3つのことを思います。「どれだけ大変か分かって言っているの?」という困惑、「誰のせいだと思っているの?」という憤慨、そして「大変さは沖縄に顕著に現れているけど、本当に大変なのは日本ではないですか?」という強いもどかしさ。「沖縄は大変ですね」といった他人事(ひとごと)のような視点ではなく、実は日本が大変なことになっているのだよ、ということを沖縄の状況から気付いてほしい、そして共に変えて行ってほしいと心から思っています。

と、ここで終わってもいい文章なのですが、「沖縄は大変ですねと言われたくない」という衝撃発言をしておきながら、そのまま終わらせる訳にはいかんのだろうなあ。書くと長くなりそうなのですが・・・。

僕の周りには「沖縄が大好きだ」という人がたくさんいます。その中には「沖縄っていいですよね」と語る人もいます。でもね、その言葉を聞くととても戸惑うのです。確かに沖縄ってとても「いいところ」だと僕も思います。けれど「沖縄っていいですよね」と言ってくる人の中で、沖縄の痛みを知っている人がどれだけいるのでしょうか。ある沖縄の女性は「沖縄っていいですよね」と言われるとすかさず「基地がなければね」と答えていると言っていました。あえて冷水をぶっかけるのです。「ほめているのに、その返しはないだろう」と思う人がいるかもしれません。でもそれがウチナンチュの本音なのです。「沖縄のキレイな部分だけ見てほしくはない。どれだけ困難を強いられてきたか、そして今も強いられているか。それは沖縄が選んだのではなく、すべて日本が押し付けてきたことなのだよ」と。同時に、沖縄の大変さに寄り添おうとしている人に対しても、同じような思いを持つのです。「沖縄と寄り添おうと思うなら、沖縄を踏みつけにしているその足をまずどけてほしいのです」と。厳しいでしょうか?(続く)

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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