耳にコバン 〜邦ロック編〜 第24回

第24回 青春妄想時代

コバン・ミヤガワ

 

お笑いコンビ「空気階段」のコントに「リコーダー」というネタがある。

誰もいない教室で、とある生徒が、好きな女の子のリコーダーを舐めるという筋書きだ。しかし、その生徒は、ただ舐めるだけでは飽き足らず、リコーダーにアクエリアスを注ぎそれを飲み始める。好きな子のエキスを余す事なく自分の一部にしようとする、最高にキモいコントである。

 

このコントが好きでたまらない。青春の甘酸っぱさと「キモさ」と「カオス」が、見事な具合に融合している。

「好きな子のリコーダーを舐める」というシンプルな構造の中に、大人のどんな欲望より遥かに狂気な妄想と、「エロ」という言葉では言い切れない偏った愛に満ちている。一体、どうすればこんなアイデアが生まれるのか。しかも、この狂気の発想をお笑いに昇華させているのだから、尊敬と感動を禁じえないわけである。

演技力とも相まって、本当に秀逸なコントだと思う。

 

日本全国、津々浦々、全少年が一度は胸に抱いたであろう好きな子との妄想。これは避けられぬ運命なんだ。想いを伝えられぬ童貞諸氏たちのささやかな妄想なのだ。

誰にだって、ボクにだってあるんだ。あの悶々とした日々。今思い出すと胸がキュッと締め付けられる、甘酸っぱい日々。

 

あの時間は、間違いなく、ボクたちの青春そのものだったんだ。

 

 

青春にはロックが必要だ。そして、青春を代弁してくれるのはパンクだ。童貞の代弁をしてくれるのは、パンクだ。

女優、原節子が「永遠の処女」なんて言われていたけど、今回は「永遠の童貞」を紹介したい。

 

「銀杏BOYZ」

 

インディーズバンド「GOING STEADY」が2003年に解散し、新たなギタリストを迎えて同年結成されたのが、銀杏ボーイズである。

ボクの青春は、このバンドを知らなかったら大きく違っていただろう。

今でも聴けば思い出す、あの悶々とした青春の日々。いつの間にかあの輝きは鈍くなってしまったが、それでも少年の心を思い出させてくれる。全少年の童貞心を揺さぶり奮い立たせる、日本を代表する青春パンクバンドの1つだ。

 

「パンクロック」というジャンルは、どうしても過激な音楽のイメージが強い。激しい音と、激しい歌詞。たしかにそれもパンクに必要な要素だ。

例に漏れず、銀杏ボーイズを初めて聴いた時は轟音でたじろいだ。ライブも過激で、よだれはダラダラ、マイクで自身の額を打ち、流血しながら叫んで歌う。一見、とてもじゃないけど上品とは言えない。

しかし、彼らのパンクには、轟音の中にどこまでも純粋な愛が満ち溢れている。

ギターボーカル峯田和伸の生み出す圧倒的な世界観の歌詞。シンプルでストレートな物言い。「美」と「汚」の共生する世界。紡がれる優しさと文学的な歌詞。

 

普通の人なら憚られるようなことでも、峯田は平気で歌う。彼の紡ぐ歌詞は、どこまでもまっすぐで、どこまでも優しい。

 

学校帰りに君のうしろをつけてみたんだよ
君の部屋は二階の水玉模様のカーテン
学校で君のジャージ盗まれた事件があったろ
誰にも言えないけど本当は犯人は僕さ

僕はストーカーなんかじゃないよ
その辺の奴等と一緒にしないでくれよ
僕は君が本気で好きなだけ
ソフトクリームを一緒に食べたいだけ

君のことが大好きだから
君のことが大好きだから僕は歌うよ

(SKOOL KILL)

 

どうでしょう。こんな歌詞、普通書かない。

家までつけていったり、ジャージを盗んだり。普通に考えたら怖い(真相は分からないけど)。それでいて「君のことが大好きだから」という純粋な歌詞。

 

桜咲く放課後に初恋の風がスカートを揺らす
カビ臭い体育倉庫にセックスのあとの汗がこびりつく
大地讃頌が流れるグラウンドに初戦で負けた野球部の涙が詰まっている
あああ 僕はなにかやらかしてみたい
そんなひとときを青春時代と呼ぶのだろう

(青春時代)

 

いずれの曲も「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」というアルバムに収録されている。

 

 

胸がキュッと締め付けられるような、綺羅びやかな青春の日々。「青春」という言葉の裏に潜んでいる、混沌たる「性欲」。

この共存こそ、まさに「性春」と呼ぶに相応しい。

 

ここまでさらけ出した歌詞を書く勇気が、どれほどの人にあるだろう。少なくともボクには書けない。書けないからこそ、それを歌う銀杏ボーイズに共感し、その「童貞臭さ」とでも言おうか、奥底にある少年心がくすぐられるのだ。

 

イヤホン耳にあてて 天の川の声が聴こえて
銀色砂漠に響く新世界交響楽団
名前はカムパネルラ 翼溶けた夜王子
夜ふかし子供はみた クロールして空を飛ぶ夢

今夜もまたプラスチックの涙が一粒消えてった

世界の終わり来ても僕等ははなればなれじゃない
世界の終わり来てもきっと君を迎えにゆくよ

(夜王子と月の姫)

 

いやいや、本当に同じ人が書いた曲ですか!? 「銀色砂漠」「プラスチックの涙」。こんな美しい言葉の数々。とても文学的だ。同じくパンクバンド『THE BLUE HEARTS』の回でも紹介したが、パンクバンドって意外に文学的な曲が多かったりする。そう考えると、パンクは「インテリ」の音楽だったりするのだ。

 

生々しいくらいの現実と、美しすぎるほどの妄想。

眩しいくらいの青春と、心のなかで渦巻く性春。

 

等身大の自分を、正直に、真っ直ぐに歌っている。誰もが思う、「自分のために歌っている」と。

男なんて老いも若きも、全員「少年」で「童貞」なんだ。

「童貞の代弁者」、キングオブチェリーボーイ、それが銀杏BOYZなのである!

 

 

[ライタープロフィール]

コバン・ミヤガワ

1995年宮崎県生まれ。大学卒業後、イラストレーターとして活動中。趣味は音楽、映画、写真。
Twitter: @koban_miyagawa
HP: https://www.koban-miyagawa.com/

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