もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~

第15回(最終回) 現地で学ぶ意味を考える

文・写真 伊藤ひろみ

 「外国語学習に年齢制限はない!」「ないのではないか?」いや、「ないと信じたい!」

そんな複雑な思いを抱えながら、まずは都内でスペイン語学習をスタートさせた。そして2023年2月、約1カ月間の語学留学を決行した。目指すはメキシコ・グアナフアト。コロナ禍を経て、満を持しての渡航となった。

 

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<第15回(最終回)> 現地で学ぶ意味を考える

 

メキシコ・グアナフアト滞在も終わりに近づいている。最初は長く感じた時間も、中盤を過ぎたころから、その流れが一気に早くなったような気がする。日々の暮らし、スペイン語の授業、迷路のように入り組んだ路地など、びっくりしたり、戸惑ったりしたことが過去になりつつある。風のように時間が過ぎていく。

先住民の言葉で「カエルの丘」が転じてグアナフアトと呼ばれるようになったとか。カエル像の後ろに広がるカラフルな町並み

 

外国語と向き合うために必要なこと

スペイン語クラス担当の教員、マヌエールは相変わらずだ。時間通りに来ないことも、天真爛漫でパワフルに授業を進めることも初日から一貫している。約1か月かけてやっと現在形の動詞の活用練習まで終え、今日から過去形(点過去)に入った。

クラスメートのソフィアは、めきめき上達しているのがわかる。カナダ人の彼女は英語母語話者だが、これまでの外国語学習経験が大きいのかもしれない。投げられた質問に対して、すぐに反応する。間違いを臆することなく、どんどんしゃべる。

一般的に日本語母語話者は、なかなかそうはいかない。答えるまでにあれこれ考えてしまったり、言葉足らずだったり。何より、すぐに「はい」か「いいえ」で答えられないうえ、その理由をきちんと説明できないことが多い。日本語母語話者同士なら、「なんとなく」とか「たぶんそう」などで済ませられても、外国人には通じない。さらに、Sí…pero~(シ…ペロ/はい…でも~)と言いたくなるなど、断定を避けがち。言語構造の違いも大きいが、日常のコミュニケーションのありように左右されやすいとも言える。

ピピラの丘から望む市内の夜景。幻想的な世界が眼下に広がる

 

英語ネイティブはどこでも英語でOK?

ある日本人学生がメキシコ人に、自分は「小食」だと伝えようとしたときのこと。「小食」という単語をスペイン語に直そうと、もたつきながら辞書をひいていた。そのとき、別の日本人学生が、こうアドバイスした。「やさしい言葉で言い換えるといいよ」と。

この視点は、外国語学習者にとって重要なポイント。ひとつの言い方に固執するのではなく、いかに頭を柔軟にして、伝えたいことを外国語で発信できるか。外国語学習は母語力も問われている。

スペイン語が出てこないとき、ソフィアは英語で質問したり、答えたりすることがある。マヌエールは英語もできるので、必要に応じて英語で説明してくれる。それはそれでありがたいのだが、私は英語が母語ではないだけに、気持ちも複雑。

英語ネイティブは強い。どこへ行っても、母語で通せる(通そうとする)。残念ながら、日本語はそうはいかない。英語に直したり、スペイン語で考えたりしているうちに、話題は次へと進んでいる。

 

グアナフアトで暮らす外国人たち

グアナフアトは予想以上に外国人にあふれた町だった。観光客だけでなく、外国からの留学生、定住者も少なくない。とりわけ、カナダ人、アメリカ人が多かった。両国からは距離的にも近く、気軽に訪ねることができるからだろう。ソフィアのような若い世代だけではない。リタイア後に移住する町としても人気のようである。温暖な気候、カラフルで魅力的な町並み、治安のよさ(メキシコの他の場所と比べて)、外国人が多くインターナショナルな雰囲気、アメリカやカナダに比べて物価が安いことなどが、その理由だろう。

彼らほどではないにしろ、グアナフアト大学言語センターで学ぶ日本人学生たちも何人かいた。スペイン語圏留学先の候補のひとつとなっているようで、今後さらに増える可能性もある。

グアナフアトに定住する日本人の何人かとも知り合った。その多くは、縁あってメキシコ人と結婚した日本人女性である。メキシコ生活40年以上という超ベテランから、近年ここで暮らし始めた人まで、年齢も経歴もさまざま。投資ビザを得て、グアナフアトで仕事をするカップルもいた。

フアレス通りはレストランやカフェが軒を連ね、外国人の姿も目立つエリア。左は大聖堂、バシリカ

 

 

「知る」「学ぶ」で何が変わるのか?

スペイン語を習得するために、現地で学ぶ必要はあるのだろうか。お金と時間をかけて現地で学ぶ意味は何なのだろうか。

日本にいながらでも学習はできる。スペイン語を専攻できる大学もあるし、専門の教育機関もある。英語ほどではないが、テキストや参考書など関連する書籍も入手できる。NHKは、ラジオ・テレビでスペイン語講座を放送している。

さらなる強みは、インターネットという武器だろう。近年、オンライン教材が充実してきている。さらに、ニュース映像や新聞記事など、スペイン語圏の情報をリアルタイムでチェックできるほか、youtubeなど動画サイトもバラエティに富んでいる。オンラインでつなぎ、ネイティブと実践会話を練習するという方法もある。

私の場合、3年ほど前から東京でスペイン語学習を始めた。自分で本を読んだり、ラジオ講座を聴いたり、語学学校に通ったりしながら、基礎の基礎はなんとかクリアしたのだが、あくまで「聴いた・見た・読んだことがある」、「少し勉強した」というレベルのことばかり。細かい違いにも注意しながら、「きちんと理解する」には至っていない。さらに、それらを「自分で使える」レベルでは、まったくない。そんな停滞から少しでも脱したい、そう思っての決断だった。さらに、私にとっての未知の国、メキシコを知りたい、そんな期待もあった。

今回の滞在は、その言葉を使う人たちからさまざまな刺激を受けた。彼らが日々どのように暮らし、何をどう感じているのか、どんなふうに話しているのか。それらすべてを理解できたわけではないが、その一端を垣間見られたと思う。そして、さらに世界が広がった。

肝心のスペイン語は、上達したと胸を張って言える自信がない。むしろ、わからないこと、知らないことだらけだと気づいたことが大きい。学ぶべきことは、山のようにある。

スペイン語に限らず、日本語母語話者にとって、日々日本語で済ませられる環境にあって、本気で外国語と向き合うのは簡単なことではない。忘れてばかりで前に進まないもどかしさ。思うように言葉にならない情けなさ。肝心なときに間違えてしまう悔しさ、恥ずかしさ。まさに、自分自身と格闘し続ける時間である。

poco a poco(ポコ・ア・ポコ/一歩ずつ)。たとえ亀の歩みであったとしても!

イダルゴ市場近くの食堂街(右)。情報が盛りだくさんのメニュー表示。スペイン語の学びにも活用できそう

 

★『スペイン語を学ぶ~メキシコ編~』をお読みいただき、ありがとうございます。メキシコ編は今回が最終回です。次号から、『スペイン語を学ぶ~スペイン編~』が始まります。引き続きお楽しみください。

ミニミニ・スペイン語レッスン〈15〉

メキシコのスペイン語

スペイン語は、本国スペインはもとより、メキシコをはじめラテンアメリカの国々で広く使用されている言語。同じスペイン語でも、国や地域によって語彙や表現など微妙な違いもあるようだ。ahoritaに代表される縮小辞―ita/itoの多用やtortillaついては、すでに紹介したが、さらにこんな例も……。

勉強を進めることで、その違いに気づくことも増えていくはず! これからもメキシコ、あるいはその国・地域ならではのスペイン語も、興味深く見つめていきたいな。

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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