もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~

第6回 なにゆえ外国語を学ぶのか?

文・写真 伊藤ひろみ

 「外国語学習に年齢制限はない!」「ないのではないか?」いや、「ないと信じたい!」

そんな複雑な思いを抱えながら、まずは都内でスペイン語学習をスタートさせた。そして2023年2月、約1カ月間の語学留学を決行した。目指すはメキシコ・グアナフアト。コロナ禍を経て、満を持しての渡航となった。

 

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 なにゆえ外国語を学ぶのか?

グアナフアト大学の屋上からの景色。ドーム屋根は大学横のラ・コンパニ―ア教会

2種類の「~です」をマスターしよう

午前8時55分、グアナフアト大学語学センターへ到着。一番のりだった。ほどなくしてソフィアが顔を見せた。“¡Hola!” とスペイン語で挨拶するも、ソフィアとの会話はすぐに英語に変わる。ソフィアはカナダ出身の英語ネイティブだし、私もろくに話せないスペイン語でやりとりするより、ずっと意思疎通しやすい。授業外での彼女との会話は、もっぱら英語となる。ソフィアは英語以外にもフランス語、イタリア語が少し話せる。新型コロナのパンデミック前、ミラノに数か月住んだことがあり、イタリア語もそこで習ったらしい。イタリア語とスペイン語は似ているところが多いので、時々混乱するとこぼす。

私は大学時代、第2外国語はフランス語を選んだが、挨拶以外は何も出てこないほどさびついているし、イタリア語の学習経験はゼロ。ソフィアと違って、それらの言語に影響されることはない。それがメリットなのか、デメリットなのかは判断がつかないけれど。

そんな話をしながら、授業が始まるのを待つ。受講生はもう一人いたが、彼は上のクラスに移動したようで、教室にはソフィアと二人だけになった。

 

その日も私のクラス担当講師マヌエールは、約20分遅れで教室にやって来た。今日のテーマは、「ser(セール)」と「estar(エスタール)」。英語の「be動詞」にあたる動詞なのだが、この2つを使い分けなければならない。前者は名前や国籍など一般的に不変のものに、後者は一時的な状態、場所や位置を説明するときなどに使用する。そもそも日本語ではそんな区別はないため、混乱しやすい。どんなときにどちらを使うか、例文で確認しながら慣れるしかない。しかも、それぞれの動詞は主語に合わせて適切な形に変えなければならず、考えることがいっぱい。ネイティブにとっては、当たり前のように自然に出てくることでも、外国語として学ぶものにとっては、ひとつひとつ身につけ、階段を上っていくしかないのである(「ser」と「estar」については、後述のミニミニ・スペイン語レッスンでも解説しています)。

 

言語センターでのスペイン語クラスの様子

 

ともに学ぶ、インテルカンビオ(intercambio・言語交換)の場

授業終了後、CADDI(カーディ/Centro de Auto Aprendizaje de Idiomas)へ。ここは言語センター内に設置されている語学学習兼自習スペース。スペイン語はもちろん、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語、中国語、韓国語、日本語などを学ぶ受講生たちが、授業外の時間などに利用できる場として設置されている。曜日、時間帯は言語によって異なるが、あらかじめ決められたタイムテーブルにのっとって、ネイティブスピーカーのチューターが学習者たちの会話の相手をしたり、質問に答えたりもしている。

 

私はスペイン語のセッションに加わった。この日のチューターはミリアム。優しい語り口で性格も穏やかそうな感じの女性だった。グアナフアト大学の卒業生で、今は語学学校でスペイン語を教えながら、週1回CADDIに来ている。ラッキーなことに、その日は私ひとりだったので、数字の練習をしたいとレッスン内容をリクエストした。2桁から順に聴き取り練習と発話練習。なかなかスムーズに出てこない私の答えを、彼女は我慢強くじっと待ち、何度も繰り返し練習してくれた。

私とのセッション終了後、ミリアムは学習者に変わり、韓国語グループに加わった。韓国語を勉強したいからだそうだ。すでに希望者5人ほどが集まっている。韓国語ネイティブではなかったが、言語センター所属のメキシコ人の先生が担当していた。

 

CADDIでは、フランス語が聞こえてきたり、中国語が飛び交っていたり。先生やチューターを囲み、言語グルーブがいくつもできている。3限で同じクラスのドイツ人学生もドイツ語のチューターとして活躍しているようだった。日本語セッションも週2回行われていて、ここに長期留学している日本人学生が担当している。

グアナフアト大学言語センターでは、日本語指導にも力を入れていて、日本人教員とメキシコ人教員数名が授業を受け持っている。受講生たちは、日本語教員控室の横にある日本語学習ルームで、宿題をしたり、日本語ネイティブと話したりしている。ここに来ると、受講生たちから日本語で話しかけられる。会話の相手をしたり、宿題の作文をチェックしてほしいと頼まれたりすることもしょっちゅうだった。

 

授業以外の時間は、ここCADDIで過ごすことが多かった

 

日本人と日本語で話したい!

買い物へ出るついでに、グアナフアト大学本館へ足を運んでみることにした。言語センターの校舎は大学に隣接した別の敷地内にあり、スペイン語の授業もサルサクラスもここの教室で行われているため、今まで大学の本館校舎へは行くことはなかった。グアナフアト大学といえば、映画『ローマの休日』に出てくるような、石造りの長い外階段がシンボル。グアナフアト観光のフォトスポットのひとつになっていて、多くの観光客たちが写真を撮りにやってくる。私も外観だけは、授業初日に撮影ずみ。

気軽に大学内へ入れるのかと思いきや、出入口で待ったがかかった。大学生たちは自分の学生証を読み取り機にかざして入館する仕組みのようだ。私の場合、まだ語学センターの学生証ができていなかったので、チェックしている係員に事情を説明しなければならなかった。授業で習った「ser」などを使って、名前やら所属やらを伝える。それでもこと足りない様子だったので、英語で理由を説明し、やっとのことでOKが出た。

大学の創立は1732年と古く、由緒ある公立大学として、メキシコ国内でも名高い。グアナフアト市内にいくかの別キャンパスがあり、3万人あまりの学生が学んでいるという。ホールや廊下、階段など、キャンパス内部の造りもなかなかりっぱで存在感がある。

 

3階の廊下をうろうろしていたとき、男子学生に声をかけられた。「日本人ですか」と。日本語ネイティブだとわかると、いきなり質問が飛んできた。「私は弁護士になるために勉強しています」と「私は弁護士になるように勉強しています」とは、どう違うのかと尋ねてきたのだ。この場合、後者は「なれるように」にしたほうがいいとアドバイス。使い分けが必要なケースなどの説明を加えたかったのだが、「ありがとうございます」と丁寧に礼を言い、これから授業があるからと慌てて教室へ入ってしまった。

突然声をかけられたうえ、いきなりの日本語の質問にびっくり。誰かに訊きたかったが、なかなかそのチャンスがなかったのだろう。弁護士を目指しているということは、法学部の学生なのか? 日本語を本格的に学んだ様子で、やりとりはとても流暢だった。

 

さらに、その会話を聴いていたのか、今度は女子学生が私を呼び止めた。日本語を勉強しているが、ネイティブと話すチャンスがないらしく、話し相手になってくれないかと依頼されたのである。なんと積極的なアピール! 語学センターでスペイン語を学んでいること、約1か月の滞在なのであまり時間がないことなど、こちらの事情を説明する。彼女も授業があるようで、その場のやりとりはいったんここまで。WhatsAppを交換し、後日改めて連絡を取り合うことになった。

 

大学本館の吹き抜け。この付近で学生に声をかけられた

 

モチベーションをアップさせるグアナフアトの環境

言語センター、CADDI、そしてグアナフアト大学、英語はもちろん、第2、第3の外国語を身につけるべく、まさに日々切磋琢磨している様子がうかがえる。市内には語学学校もいくつかあるし、カフェに集まって言語交換している人もいると聞く。

グアナフアトは、英語圏からの旅行者はもちろん、ヨーロッパ各国、日本をはじめ東アジアからの観光客も多い。そんな環境が外国語学習への意欲を高めているようだ。身近にターゲット言語のネイティブがいることは、やりとりする機会が増え、大きな刺激になるのだろう。とりわけ若い世代にとっては、さらにエンパワーし、これからの時代を乗り切るための、避けては通れない道なのかもしれない。

学生たちが中心となって醸し出すこの雰囲気。日本にはない何かのように思える。想像していた以上に、外国語学習熱が高いグアナフアトであった。

 

大学のシンボル、外階段上からの夜景。正面の丘の上にピピラ像が見える

ミニミニ・スペイン語レッスン〈6〉

「ser」と「estar」

★「ser」

・名前、職業、所属など。例「私は日本人です」「彼は学生です」

・真理や客観的事実など。例「今日は月曜日です」「地球は丸い」

★「estar」

・一時的な状態。例「彼は病気です」「そのコーヒーは温かい」

・位置や場所。例「グアナフアトはメキシコにある」「駅はどこにありますか」

(estás、está、estáis、están は、アクセント符号がつき、アクセント位置に注意)

まずは、自己紹介などでよく使う例文から、主語に合わせて活用することに慣れていくことがポイント。

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

 

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