もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~

第5回 ¡Bailemos salsa!(サルサを踊ろう!)

文・写真 伊藤ひろみ

 「外国語学習に年齢制限はない!」「ないのではないか?」いや、「ないと信じたい!」

そんな複雑な思いを抱えながら、まずは都内でスペイン語学習をスタートさせた。そして2023年2月、約1カ月間の語学留学を決行した。目指すはメキシコ・グアナフアト。コロナ禍を経て、満を持しての渡航となった。

 

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 ¡Bailemos salsa!(サルサを踊ろう!)

 

語学プログラムになぜかサルサクラスがあった!

グアナフアトのメインストリート、フアレス通りをぶらぶら歩いたり、ピピラの丘から眺める景色を堪能したりして、いつしか心も落ち着いてきたようだ。再びグアナフアト大学語学センターを目指して、坂を上り始める。夕刻から始まるダンスワークショップに参加するためである。

「ダンス?」 入学手続きをしたときにもらった時間割に、Taller de baile(タジェール・デ・バイレ/ダンスワークショップ)と書いてあるのを見つけた。中南米諸国で人気のダンスミュージックについて、そのリズムや歌詞、歴史を解説する授業かと思いきや、サルサダンスの練習をするクラスらしい。参加するもしないも個人の自由で、登録も予約も不要。語学センターの学生なら誰でも参加OKで、「興味があればどうぞ」ということだった。

一般的に語学学校のアクテビティには、町歩き、映画鑑賞、料理やスポーツ体験などが設定されていることが多いが、ダンスとは珍しい。しかも、サルサだって!

個人的にダンスは嫌いではない(こういう言い方は、いかにも日本語的ですね。スペイン語なら、Me gusta bailar.(メ・グスタ・バイラール/私は踊りが好き)と言うだろう)。そもそもスペイン語を学ぶきっかけのひとつだったのがフラメンコだし、ラテン音楽も大好き。本場のダンスを習えるなんて、思ってもみなかったことだ。まったく自信がないが、これも何かの縁。やってみるか!

中庭をはさんで教室が配置されている言語センター。 サルサクラスも教室内でレッスン

 

カルロス先生、大活躍

教室では、練習前の準備作業をしているところだった。ダンスのための特別な場所はなく、教室のひとつを使って練習するため、毎回セッティングが必要のようである。学生たちに混じって、机やいすを廊下へ運び出す。

すでに30人近くの学生が集まっていた。指導するのはカルロス先生。3コマ目の授業を受け持った先生である。スペイン語だけでなく、サルサも教えるようだ。まずカルロス先生が、学生の男女の人数をカウントする。サルサは男女ペアで踊るためである。女性のほうが3~4人多かったので、彼女らを男性側へ。男女が向かい合わせになるように並び、それぞれが列を作る。教室内が学生たちでびっしりと埋まった。

まずは、hombles(オンブレス/男性たち)から。カルロス先生が自ら踊り、見本を見せる。さらに、mujeres(ムヘーレス/女性たち)と声がかかり、女性側のステップを紹介する。男女が違う動きをするので、それぞれ自分のパートを練習し、それをペアで合わせていくというやり方だ。「un,dos,tres.(ウン・ドス・トレス/1、2、3)」カルロス先生のカウントと声に合わせて、足を動かす。さらに、男女がお互いに手を取り合ったり、回転したりと、サルサらしい動きへとつなげていく。

サルサクラスの様子。相手を交代しながら、ペアで練習

 

 ノリノリのメキシコ人がリードする

「!Cambio!(カンビオ/交代)」カルロス先生のかけ声で男性が一人ずつずれていき、ペアが代わる。さらに、男女それぞれの次のステップが紹介され、それらを繰り返し練習する。途中でどんどん相手が入れ代わる。カルロス先生の号令でペアが代わると、「¡Hola! オラ!/やあ!」「¿Qué tal? ケ・タル?/元気?」などと、それぞれのペアで挨拶が始まる。さらに、名前や国を尋ねたりして、相手との心理的距離を縮める。ダンスが始まるほんの20~30秒間に交わされるやりとりに過ぎないが、それはそれでスペイン語の練習にもなる。出身は、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、タイ、韓国など。改めて、多くの国から学生たちが来ていることを実感する。日本人学生も7~8人参加しているようだ。私とはクラスは異なるが、彼らもここでスペイン語を学んでいる。

何度か先生の声かけカウントで練習した後、音楽に合わせる。慣れない動きに戸惑い、足がもつれる。ステップがすんなりのみ込めないばかりか、くるりと回ったりすると、バランスを崩したり、次の動きを見失ったりと、おたおたの連続。

参加者は語学センターで学ぶ外国人だけでなく、ここで英語やフランス語などの外国語を習っているメキシコ人もいる。彼らは普段も踊っているのか、音楽が体になじんでいるのか、とにかくノリがいい。ほんとうに楽しそうに軽やかに踊るのだ。こういうときに、反応が悪いのは日本人学生。お互いの距離がとても近いだけでなく、男女が目を合わせ、手をつないだり、相手の体をふれる動きがあったりすることに過剰反応し、妙に体をこわばらせてしまうからかもしれない。私も含め、お辞儀ディスタンスと盆踊り的ダンスのDNAが染みついているのだろうか。

 

ダンスで変わる人生もある?

繰り返し練習してステップを踏めるようになれば、気分も盛り上がってくる。何より、音楽にのって体を動かすことが大切なのだ。何度もペアを変えたことで気づくのは、リードがうまい男性は、こちらものりやすく、自然に体が動く。逆に、男性がもたついていると、こちらも踊りにくいのである。私は過去に1日だけタンゴを習ったことがあるのだが、タンゴはサルサ以上に男女の密着度が高く、男性リードに合わせて女性が動く。ダンスとしての共通点があるようだ。

とにもかくにも、踊るという行為は、否応なしに異性を意識させるもの。スペイン語の動詞の活用にもたつき、あたふたしている語学の授業とは異なる姿を映し出す。ソフトな声かけ、リードもうまい男性はたちまち人気になりそう。若者たちの中には、新しい出会いに胸をときめかせ、その後の人生を変える出会いになる人もいるかもしれない。「もし20代でここに来ていたら……」と、そんな思いが一瞬頭をよぎったりして!

いかに音楽にのれるかがカギ。男性のリードが重要のよう

 

来客とともにテーブルを囲む夜

2時間近く踊ったので、いささかお疲れモードだったが、気分は爽快。ホームステイ先へ戻る足どりも、いつもより軽やかだった。

私の帰宅を待って、夕食の時間となった。テーブルに見知らぬ女性がひとり座っていた。オルガさんの友人、セシリアさんだと紹介された。彼女は今夜、オルガさん宅で泊まるようで、ともにテーブルを囲んだ。

キャベツ、人参、ブロッコリー、セロリなどが入った野菜スープに、ほっと息をつく。食事をしながら、今日の出来事を報告する。といっても、スペイン語の単語を並べる程度の会話なのだが、授業で習ったことやサルサクラスの様子など、とにかく必死で話を続ける。セシリアさんによると、サルサ、マンボ、チャチャチャ、レゲトンなどのラテンアメリカ音楽は、メキシコでも人気が高いという。何がどう違うのかまでは、スペイン語で理解できなかったが、それらはあとで調べがつくだろう。グアナフアトの繁華街には、歌ったり、踊ったりできるナイトクラブなどもあり、カラオケも人気らしい。もはや、カラオケは世界共通の言葉。アクセントは異なるが、訳さなくても通じる。

スペイン語、そしてサルサ。あれこれ戸惑いながらも、めいっぱい頭も体を動かした一日。夜は心地よい眠りが待っていた。

 

ミニミニ・スペイン語レッスン〈5〉

★スペイン語の数詞
外国で暮らすときに慣れておく必要があるのが数詞(数字)。値段、月日、時刻など数字を使ってのやりとりは、日常生活に避けて通れない。サルサでリズムを取るときにも、カルロス先生がun,dos, tres ……とカウントし、皆に号令をかけていた。ダンスで使うのは1~12くらいまでなのだが、買い物したりする際には、さらに大きな数字が出てくるだけに早い段階で身につけておくのがいいだろう。
1~10までは以下の通り。

(1は男性名詞の前ではun、女性名詞の前ではuna、単独で数えるときはunoが基本)

7はiのあとのeに、9はuのあとのeに、10はiではなくeにアクセントがあるので、その母音を強く、やや長めに発音するのがポイント。慣れてきたら11~20、21~100、さらにその上と、少しずつ数を増やしていこう。覚えるためには、口だけでなく、手を動かすのもコツ。書くことで脳を刺激し、記憶に残りやすい。私の場合、ノートなどに何度も書いて覚えるようにしている。文字などを見るだけで覚えられるという人もいるようだが、私にはそんな才はなく、時間をかけるしかない。それでも、すぐ忘れるし、肝心なときに出てこない。口惜しいことこの上ない。

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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