もう一度、外国語にチャレンジ! スペイン語を学ぶ ~メキシコ編~

第2回 世界文化遺産・グアナフアトは銀の採掘で栄えた町

文・写真 伊藤ひろみ

 

「外国語学習に年齢制限はない!」「ないのではないか?」いや、「ないと信じたい!」

そんな複雑な思いを抱えながら、まずは都内でスペイン語学習をスタートさせた。そして2023年2月、約1カ月間の語学留学を決行した。目指すはメキシコ・グアナフアト。コロナ禍を経て、満を持しての渡航となった。

 

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<第2回>  世界文化遺産・グアナフアトは銀の採掘で栄えた町

メインストリートに面したラ・パス広場。 観光客のほか、物売り、大道芸人などでにぎわうエリア

 

不安と期待、そして日本のおみやげをめいっぱい抱えて、2023年2月、成田から機上の人となる。今回の旅の第一の目的は、とにもかくにもスペイン語の力をつけること。そう書くと、えらく殊勝でりっぱな決意に聞こえるが、マンネリしつつあった学びに刺激がほしかったことが大きい。日々ネイティブに囲まれ、現地の学校で学ぶことで、亀の歩みから脱したかったのである。とはいうものの、いきなりウサギになれないことは百も承知だ。大人の学びは、どうモチベーションを保ち続けるかがカギ。試験があったり、単位が必要だったりする学生でもなければ、仕事で使わざるを得ない立場でもないからだ。

目的地メキシコ・グアナフアトに最も近い国際空港はレオンにある。そこからグアナフアト市内までは、車で40~50分だという。レオン空港まで日本からの直行便はないため、今回はアメリカ・ダラス経由で航空券を手配した。運悪く、出発直前にダラスが寒波に見舞われた。祈るような気持ちで、大雪に包まれた空港のニュース映像を見つめる。「予定通りに飛んでくれますように。無事グアナフアトへ行けますように」。

その願いが届いたのか、日ごろの行いがよかったからなのか。(単にラッキーだっただけか?)なんとか予定通り、成田⇒ダラス⇒レオンと移動できた。

 

グアナフアト地下道のラビリンス

レオン空港の到着ロビーは人でごった返していた。人込みの中で、私の名前を書いたシートを掲げたドライバー、ロドリゴさんが立っていた。到着時刻が午後9時過ぎになることもあり、出迎えをお願いしていたからである。

カーン! 私の中でゴングが鳴った。さあ、いよいよスペイン語生活のスタートだ。

「Buenas noches.(こんばんは)Me llamo Hiromi.(ヒロミです).Encantada.(はじめまして)」と、まずはお決まりの挨拶から。

「Bienvenida.」(ようこそおいでくださいました)」と歓迎の言葉が返ってくる。と同時に、「Es mi hija, Luisa.(娘のルイサです)」と彼の横に立っていた女の子を紹介した。「Hola(オラ) Luisa」と声をかけると、はにかんだ表情で「Hola」と返した。駐車場に向かいながら、ロドリゴさんのスペイン語に耳をそばだてる(スペイン語での自己紹介と読み方は末尾で紹介しています)。

空港ターミナルビルの外は、ひんやりとした空気に包まれていた。薄手のセーターにウインドブレーカーを羽織ってちょうどいいくらい。1年を通じて比較的温暖な気候のグアナフアトだが、現地を知っている人から、「夜は冷えるよ」と聞いていただけに、なるほどこんな気温なのかと実感する。

駐車場から次々に車が出ていく。私は助手席に、ルイサちゃんは後部座席に座り、ロドリゴさんがエンジンをかけた。

車中でさらに自己紹介が続く。東京から来たこと、スペイン語を習っているがまだ下手なこと、メキシコは初めての訪問であることなど。このあたりまでは、もたつきながらもなんとかスペイン語でやりとりする。ルイサちゃんは高校3年生。現在英語を勉強しているそうだ。ロドリゴさんも多少英語が話せるようで、ほっとひと安心。質問や返答につまると、とりあえず英語でつなぐ。そうしているうちに、いつのまにか英語オンリーに。いかん、いかん!

空港から30分ほどハイウェイを走っていたが、グアナフアトの市街地へ近づくと、車はいきなり地下道へもぐった。ロドリゴさんはハンドルを切りながら、迷路のように入り組んだ通りをくねくねと移動する。もはやどこを走っているか、私にはまったくわからない。ガイドブックでは、この地下道はグアナフアトの名物だと紹介されていた。かつては地下水路だったという。

スペイン人たちは、メキシコ中央高原地帯でいくつかのコロニアル都市を築いたことは、前号で述べた。グアナフアトの運命を大きく変えたのは16世紀半ば。メキシコにやってきたスペイン人が、偶然この地で銀鉱脈を発見する。その噂を聞きつけたスペイン人たちは、グアナフアトへどっと押し寄せた。狙うは一攫千金、ならぬ一攫千銀? 欲深い人間が考えることは、今も昔も変わらないようである。鉱山ブームによって得た富の多くは、本国スペインへと送られたが、この地にももたらされた。スペイン風の家屋、石畳の通り、きらびやかな教会の数々。迷路のように広がるこの地下道こそが、コロニアル都市グアナフアトを支えたともいえる。

迷路のように走る地下道。地下にバス停もある

 

オルガさん宅で新生活スタート

しばらく地下道を走ったあと、いきなり地上へ。と同時に、一瞬にして景色が変わり、石造りの建物が並ぶ通りに出る。ロドリゴさんはギアを切り替え、坂道を上っていく。カンテラに照らされた石畳の細い通り。群青の空には星が輝き、ぽっかりと月が浮かんでいる。

一軒の家の駐車場前で車が止まった。「着いたよ」とロドリゴさんが声をかけた。玄関先では、ひとりの女性が私を待っていてくれた。

グアナフアトでホームステイ先を探していた際、知人のひとりが、おすすめの滞在先として、オルガさん宅を紹介してくれた。彼は何年かここで暮らした経験もあり、今でも家族ぐるみで連絡を取り合っているそうだ。

海外に出るとき、神経を使うことのひとつは滞在先である。今回の滞在期間は約1カ月。その間、安心して気持よく過ごせる場所を選ぶ必要があった。すぐにオーナーのオルガさんとコンタクトを取り、日本から予約を入れた。

今度はオルガさんと、はじめましてのご挨拶。「疲れたでしょう?」とオルガさん気遣ってくれる。「明日の朝食は何時がいい?」と聞かれ、「8時にお願いします」と答えた。

現地時刻では、すでに午後11時半過ぎ。長い移動を経て、なんとかメキシコ・グアナフアトの滞在先へとたどり着いた。

ヒュルルル~。今夜は少し風が強そうだ。風にあおられた何かが窓の外でカタカタと鳴っている。長旅で疲れていたが、時差のせいなのか、気持ちが高ぶっているからなのか、その夜はなかなか寝つけなかった。

銀の採掘で栄えた町、グアナフアト。 観光客向けに施設の一部を公開している元採掘場もある

 

 

ミニミニ・スペイン語レッスン〈2〉

★スペイン語で自己紹介
・「はじめまして」Encantado/Encantada(エンカンタード/エンカンターダ),
Mucho gusto(ムーチョ グスト)
スペイン語で「はじめまして」はふた通りある。ひとつは、Encantado/Encantada。話し手が男性の場合は前者、女性だとEncantadaとなる。もうひとつ「Mucho gusto」も初対面の挨拶に幅広く使われる表現である。こちらは男女同型。いずれも、「私はあなたと知り合いになれてうれしいです」という意味のスペイン語から来た表現で、英語の「Nice/Glad to meet you」にあたる。

・「私は〇〇です」Me llamo 〇〇(自分の名前).(メ・ジャーモ 〇〇)
名乗るときによく使われるフレーズのひとつ。llamo はllamar 「~を呼ぶ」という動詞が活用した形。me を含めてllamarseという再帰動詞の活用形で、「~という名前である」の意。自分の名前を言う場合は、me llamoとなる。

自己紹介の際、日本語ではさらに「よろしくお願いします」とつけ加えたいところだが、スペイン語にはこれにあたる表現がない。同様に英語にもぴったりの表現がない。会話やメール等、日本語ネイティブは「よろしくお願いします」を多用しがちである。日本人と接点の多い外国人なら理解してくれるかもしれないが、それも相手次第だろう。

 

 

[ライタープロフィール]

伊藤ひろみ

ライター・編集者。出版社での編集者勤務を経てフリーに。航空会社の機内誌、フリーペーパーなどに紀行文やエッセイを寄稿。主な著書に『マルタ 地中海楽園ガイド』(彩流社)、『釜山 今と昔を歩く旅』(新幹社)などがある。日本旅行作家協会会員。

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