第2回 企画書も書類もメールも日本語を操るトレーニングだ
スージー鈴木
「スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ」、無事第2回を迎えることができました。前回は「サラリーマンがロックンローラーになれる理由」を書きましたが、今回からは、より具体的に「サラリーマンがロックンローラーになるための方法論」を書いてみたいと思います。
具体的に、ということなので、「サラリーマン」と「ロックンローラー」を具体的に狭めに定義しておきます。今回の「サラリーマン」は、ちょっと前の言葉で言うところの「ホワイトカラー」、昨年まで会社員だったの私のような、事務職とか企画職とか管理職とかとします。
そして「ロックンローラー」は、今回に限っては、私のような評論家とかライターとか、日本語を書いたり、話したりする仕事としてみます。つまりは「ホワイトカラー」が言葉を操(あやつ)る「ロックンローラー」になるための方法論。
そもそも会社員って、日々日本語を操っていますよね。企画書作りやプレゼンテーションなんて、その典型ですが、その他の書類作りとか、メールとか。そうメール。当時の私、多いときなんて、1日50通くらい書いたりしたのではないかしら。
勘のいい方は、もうお気付きでしょう。そうです。そうなんです。
こんなに恵まれた日本語トレーニングの場はないのです。書いて書いて話して話して。極論すれば、日本語を操る練習をしながら、お金がもらえるという、この上ないパラダイス。
私の提案は「企画書やプレゼン、書類で使う日本語を工夫しよう。より分かりやすくなるように」というもの。それを繰り返していくと、評論家やライター、つまりロックンローラーへの道が、少しずつひらけてくる。
もしくは、残念ながらロックンローラーになれなくとも、そのことで培われた日本語力は、強烈な汎用性を持つ武器です。サラリーマンとしての目の前の仕事にも、もしくは転職した先の他の仕事でも、十分に発揮されるはず。
では、より具体的に、日本語力をどのように身に付ければいいのでしょう。これはねぇ、色々あるのです。本当に色々あるのですが、「分かりやすく書く」ことだけに絞れば、神経を最も使うべき対象は「語順」だと思います。
1. 神経を最も使うべき対象は「語順」だと思います。
2. 最も神経を使うべき対象は「語順」だと思います。
3. 「語順」だと思います。神経を最も使うべき対象は。
突然ですが、この3文、どれも同じことを言ってますが、いちばん分かりやすい、というか、いちばん意味がスッと入ってくるのはどれですか?
トリッキーな倒置法の「3」は論外として(でも、理解優先ではないパラグラフなどでたまに使うと効果絶大。この原稿でもすでに一度使っています)、「1」「2」、「スッと入ってくる」度合いにおいて、微妙に差があると思います。
私なら「1」ですね。なぜなら──「神経を」と「最も」、「神経を」の方が「最も」より、文字数にして1文字、読みにして2文字多いから。
このあたりは本多勝一の名著『日本語の作文技術』(朝日文庫)に詳しく書かれていることなので(第三章:修飾の順序)、興味ある方はぜひ参照していただきたいのですが、修飾節(句・語)が複数あった場合、文字数の多い順に並べていくと分かりやすくなるという原則があるのです。
1. およそ30年ぶりとなる風速50mの風がいま吹いた。
2. いまおよそ30年ぶりとなる風速50mの風が吹いた。
微妙ですが「1」の方が正解でしょう。「2」の方は、「およそ30年ぶりとなる風速30mの風」という文字列を読んでいるうちに、大げさに言えば、「いま」ということを忘れてしまう。
細かいですが、でも「いま」を強調したいためにどうしても前に出したいのなら、読点「、」を入れるべきでしょうね。
2′. いま、およそ30年ぶりとなる風速50mの風が吹いた。
ええい、もっと。
2”. たった今、およそ30年ぶりとなる風速30mの風が吹いた。
この場合だと、細かいですが、私なら「いま」を「今」と漢字にして、メリハリを付けます。
●実はプロの新聞記者も「語順」が怪しい
実は、日本語についてはプロ中のプロであるはずの新聞記者も、案外雑な文章を書いていたりします。
──海上自衛隊の護衛艦が2021年春から複数回にわたり、中国が南シナ海で領有権を主張する人工島や岩礁の近海を航行していたことが分かった(読売新聞/2022年1月11日)
うーむ。
──中国が南シナ海で領有権を主張する人工島や岩礁の近海を、海上自衛隊の護衛艦が2021年春から複数回にわたり航行していたことが分かった(スージー新聞)
でしょうねぇ。ただ、さっきと同じように、どうしても「海上自衛隊の護衛艦が」から入りたい、それで目を引きたいのであれば、
──海上自衛隊の護衛艦が、南シナ海で中国が領有権を主張する人工島や岩礁の近海を、2021年春から複数回にわたり航行していたことが分かった(読売&スージー新聞)
どこをどう変えたか。ニセ本多勝一ぶりを確かめてください、興味ある方は(と、ここでも倒置法)。
おっと、いよいよ細かい話になってきましたが、急いで話を戻すと、こんな工夫を絶えずしながら、分かりやすい文章を追求する。企画書でも、その他書類でも、メールでも。そうすると、商品価値のある日本語の操り手になれるはずです。
なぜ、あえてこんなことを書いているかというと、ビジネスの現場って、スピード優先なので、不自然・不明瞭な日本語が垂れ流されすぎているんですよね。で、ひどい場合は、その不自然・不明瞭さがトラブルの種となって、スピードが遅れていくという、本末転倒な局面もあったりします。
逆に、いい日本語はビジネスを、さらにスピーディにかつ効率化します。だから、いい日本語を追求するクセを付けておくと、ロックンローラーにはなれなくても、いいサラリーマンには絶対になるはずです。保証します。
「ロックンロール」とはロック(岩)とロール(回転)でできています。岩のようにとっつきにくい意味内容が、くるくると回転するようなスムーズさで、相手の意識にスッと入っていくような日本語を意識してみてください。
このテーマ、ちょっと深そうですね。あと1回くらい続けてみます。
[ライタープロフィール]
スージー鈴木(すーじーすずき)
音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演etc多数。
著書…『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法』『1979年の歌謡曲』『80年代音楽解体新書』(いずれも彩流社)。近著に『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『恋するラジオ』(ブックマン社)。
ウェブ連載…「東洋経済オンライン」「FRIDAYデジタル」「水道橋博士のメルマ旬報」など。