僕がゲイで良かったこと 第31回

第31回 南西諸島ってどこ?

平良 愛香

 「沖縄本島ってほんとう?」「沖縄県ってほんとうに沖縄県?」に続いて「南西諸島ってどこ?」が今回のテーマです。(と言っても、間にいろいろな話を挟んでしまったので連続というわけにはいきませんでしたが)。

「南西諸島の軍事要塞化」という言葉を目の当たりにすると僕はいくつかの違和感を持ちます。もちろん「軍事要塞化」という言葉には違和感どころか怒りしか出てこないのですが、今回の問題は「南西諸島」についてです。どこからどこまでが南西諸島で、どこから見ての南西諸島なのか。そしていつから「南西諸島」なのか。

「南西諸島」という言葉は明治政府による琉球併合の後、海軍省が領土確定のために版図(はんと)(領土地図)に載せた名称のようです。すなわち、「日本の領土で、政府から見て南西の方向」を「南西諸島」と名付けたことになる。言い換えると、「お前たちは明治になってからは日本の領土なのだ」と言われている「被支配」を感じる言葉であると同時に、「東京から見て南西の方向」という「東京中心主義」を匂わす言葉であることを感じるのです。

私の親は東京に行くことを決して「上京する」とは言いません。東京を「上」と見ないために。これは単純に行政の中心地を「上」と見ないだけでなく、むしろそれ以上に「天皇のいるところを上と見ない」という意味が強くあります。そういう親の影響もあって、「上」という言葉を使うときには私も少し慎重になりました。何をして「上」というのか。ただの慣用句であっても、そこに潜む「上下関係」には敏感に抗ってきました。「沖縄本島」というのも避けていたし、沖縄島より南の島を「先島」と呼ぶのも避けていました。それらの名称が「権力者視点」で(ときには沖縄島が権力者になって)生まれていたのを感じていたから。その感覚が「南西諸島」という名称に違和感を持たせていたのかもしれません。ある人が「『南西諸島』は東京を中心にした名称であり、領土としての名称だよ。ある意味戦争用語。戦争で沖縄を捨て石として利用している側の言葉をこちらが用いて同じ土俵に上がるのはおかしい」と話してくれて、ストンと落ちるものを感じました。確かに沖縄アイデンティティを中心としたとき、そこを無批判に「南西諸島」と呼ぶのはおかしい。だからこそ「琉球弧」という独自で生み出した名称に意味が出てくるのでしょう。

先日鳥取市でLGBT関連の講演(このコラムでは現在は沖縄の話が続いていますが、その前はLGBTの話を連載していました。関心のある方はバックナンバーを是非どうぞ。沖縄の話を連載している間にも講演活動は続けていますし、コラムで取り上げたいLGBT関連の話も次々起きていますので、様子を見ながら取り上げていきますね。)をしたとき、同性愛行為をしただけで法律によって罰されたり死刑にされたりする国があるという話を入れました。その中で「中近東」という言葉を使ったのですが、参加者のアンケートの中に「中近東というのはヨーロッパを中心とした視点の言葉ですね。西アジアでいいのではないですか」というコメントがありました。本当にその通りだと思いました。どの用語を選び取るかは委ねられているのかもしれませんが、私たちが無意識に使う言葉の中には、現地よりも支配者の側に立っている言葉が少なくないということに改めて気づかされました。(そう言えば日本を「極東」と表現するのもおかしいですよね。)

さてそんな中、また別の視点を与えられました。今年5月13日の東京新聞で元海兵隊員の政治学者ダグラス・ラミスさんがこんなことを語っていたのです。

「なぜ沖縄と言わず、南西諸島とぼかしているのか。南西諸島との言葉を多用することで、沖縄の危険性が見えなくされているように感じる」「沖縄は本土の捨て石にされたという強烈な記憶が残る。沖縄がまた戦場になる可能性をわかりやすく示すと、抵抗感が再び大きくなる。そうさせないために南西諸島という言葉で、国にとっての不都合をごまかし、曖昧にしていないか」と。

「戦争」という抵抗感の強い言葉を避けて政府が「有事」を使うように、また沖縄で2016年12月にオスプレイが安部(あぶ)海岸に墜落して機体が真っ二つに大破した際「不時着」と報道されたように(米軍準機関紙「stars and stlipes」ではちゃんと「crash(墜落)」と報道していたのに)、政府が選んで用いる「南西諸島」という言葉の裏には何かを隠そうとしている、あるいは既に「沖縄を再び捨て石としようとしている」ということを隠そうとしているのかもしれません。

「南西諸島という言葉を使うな」と言うつもりはありません。ただ、「こんなことを思っている人もいるのだ」「どうしてその言葉が使われているのか、無批判に使うことを疑うことも必要だと思っている人もいるのだ」ということを知ってほしいと思うのです。

 

[ライタープロフィール]

平良 愛香(たいら あいか)

1968年沖縄生まれ。男性同性愛者であることをカミングアウトして牧師となる。
現在日本キリスト教団川和教会牧師。

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