スージー鈴木のロックンロール・サラリーマンのススメ 第8回

第8回 目に見えるすべての社員にロックンロール・メッセージ

スージー鈴木

 

今回は「ロックンロール」を外した、単に「サラリーマン」な話から始めたいと思います。だから、ちょっと真面目というか、つまんない話になります。

サラリーマン社会は組織社会。若手の育成が最重要のテーマです。私が会社の中で年寄りになっていったとき、よく若者に言ったのは「1つの仕事に1つのアイデアを」ということでした。

若者に任せる仕事ですから、必然的に雑務が多くなります。でも、それを雑務だからといって、機械的にやるな(やり過ぎるな)よ、と。せっかくなんだから、君自身のアイデアを、些細なものでもいいから、何か1つ入れてみる工夫をしてごらん、と。

例えばコピーを取るときでも、サイズの指示がなかったら、A4の紙にスライド2つ入れる、いわゆる「ニコイチ」にしてみて、ちょっとSDG’sにするとか。

ワードやパワポのデータが送られてきて、最後のフィニッシュをお願いされたなら、より見やすくなるように、ちょっと色を変えてみるとか、枠囲いするとか、イラストを入れてみるとか。

プレゼン当日、スタッフが準備でヘロヘロになって、ネットのチェックを怠っているときに、プレゼンに関係する、当日リリースの記事をみんなに送るとか。

要するに「気が利くやん、素敵やん」的なアイデアですね。そういう自分なりのアイデアを、与えられた仕事に、何か1つ組み込んでいく。その積み重ねが、君の成長につながるんだよ、と言うわけです。

どうですか? この普っ通のサラリーマン話。このつまらなさ。スージー鈴木が、実に凡庸なサラリーマンだったかが、分かろうというものです。

 

タイトルの元ネタ=『やさしさに包まれたなら』が入った傑作アルバム、荒井由実『MISSLIM』

●1つの仕事に1つのロックンロールを

 

単なる「サラリーマン」の話は以上。ここから「ロックンロール」を付けます。

同様に、ロックンロール・サラリーマンを目指すのであれば、「1つの仕事に1つのロックンロールを」という標語も成立するのです。

具体的に言えば、私は音楽と野球が好きで、そういうのに詳しい、面白いやつがいると、社内で知られたい、有名になりたいと思いました。

よく、会社界とロックンロール界(私にとっての音楽や野球)を、くっきりと分けたいという人がいます。「サラリーマンの私は、世を忍ぶ仮の姿」というやつですね。

それも分からなくはないのですが、会社という、サラリーマンにとって、いちばん身近なコミュニティの中で、自らのロックンロール性を隠すのはもったいないと思うのです。むしろ、自らのロックンロールのために、積極的に利用すべき。

だから「1つの仕事に1つのロックンロールを」。荒井由実風に言い換えると「♪目に見えるすべての社員にロックンロール・メッセージ」。

具体的で個人的な話を続ければ、「野球場企画書」というのを作ったことがありますよ。「野球場に関する企画の書類」ではなく、単に「野球場の形を使って説明をする企画書」。

確かクルマのCMに関する企画書でした。起用するタレントの画像を野球場のフィールドに散りばめて、「●山●子は今回のイチオシですから、フィールドのど真ん中に転がるセンター前ヒット。▲田▲美は、今回のクルマにはちょっと上品過ぎて、ライト線ギリギリ。でもうまく行けば、ライト線ですから三塁打になって、大盛りあがりするかもです。逆に、×崎×江は最近、不良っぽくなり過ぎて、レフト線を外れるファールですね」みたいなプレゼン。

音楽関係で言えば、忘れられないのは、ギターを弾きながらプレゼンしたことですね。よくしたもので得意先はレコード会社。ある洋楽アーティストのベスト盤の販促戦略プレゼン。

ターゲットを3つに分けて、それぞれの属性をコードで表現する。「コア層の属性は、コードで言えばE+9(じゃらーん、と実際に弾く)。サブ層はE7(じゃらーん)、一般層はE(じゃらーん)」。得意先はあっけに取られていましたが。

でも、そういうことの積み重ねで、同じ会社の同僚、ひいては得意先にまで、野球と音楽に詳しい、ロックンロールなやつがいるんだということが喧伝できるわけです。

ロックンロール・サラリーマンにとっては、毎日がプロモーションです。「♪目に見えるすべての社員にロックンロール・メッセージ」と歌いながら、仕事でもロックンロールしましょう。

 

 

[ライタープロフィール]

スージー鈴木(すーじーすずき)

音楽評論家、小説家、ラジオDJ。1966年11月26日、大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。音楽評論家として、昭和歌謡から最新ヒット曲までを「プロ・リスナー」的に評論。著書・ウェブ等連載・テレビ・ラジオレギュラー出演多数。
著書…『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』『1979年の歌謡曲』(いずれも彩流社)、『恋するラジオ』『チェッカーズの音楽とその時代』(いずれもブックマン社)、『ザ・カセットテープ・ミュージックの本』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)、『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ 1978-1985』(新潮新書)、『カセットテープ少年時代』(KADOKAWA)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。

タイトルとURLをコピーしました